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札幌地方裁判所 昭和30年(ワ)787号 判決

原告 瀬尾豊也

被告 阿部ヨシ 外一一名

主文

被告森良一は原告に対し別紙目録記載の建物につき札幌法務局昭和三十年二月二十二日受付第三七九四号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号四)の抹消登記手続をせよ。

被告国方幸隆は原告に対し右建物につき同法務局同年三月三日受付第四六三三号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号五)の抹消登記手続をせよ。

被告八田鉱業株式会社は原告に対し右建物につき同法務局同年三月十五日受付第五七二二号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号七)の抹消登記手続をせよ。

被告乙坂与助は原告に対し右建物につき同法務局同年三月十五日受付第五七二二号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号七)の抹消登記手続をせよ。

原告のその余の被告等に対する請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを十分しその二を被告森良一、同国方幸隆同八田鉱業株式会社、同乙坂与助の負担としてその余を原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は原告に対し被告阿部ヨシは別紙目録記載の建物につき札幌法務局昭和二十九年十一月十日受付第二三一五九号をもつてなした所有権保存登記、被告朝日産業株式会社は右建物につき同法務局昭和三十年一月二十日受付第八七一号をもつてなした所有権移転請求権保全の仮登記及び同法務局同年一月二十日受付第八七〇号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号弐)被告平健治は右建物につき同法務局昭和三十年三月十六日受付第五八二八号をもつてなした。弐番仮登記の移転登記、同法務局同年三月十六日受付第五八二九号をもつてなした弐番抵当権(債権と共に)移転登記、同法務局同年三月十七日受付第五九八七号をもつてなした、参番抵当権(債権と共に)移転登記及び同法務局同年三月十六日受付第五八三〇号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号八)被告嶋田悦郎は右建物につき同法務局昭和三十年五月十日受付第一〇五〇二号をもつてなした、弐番仮登記の移転登記同法務局同年五月十日受付第一〇五〇一号をもつてなした弐番抵当権(債権と共に)移転登記、及び同法務局同年五月十日受付第一〇五〇三号をもつてなした参番抵当権(債権と共に)移転登記被告中央信用組合は右建物につき同法務局昭和二十九年十二月九日受付第二五九四八号をもつてなした根抵当権設定登記(順位番号壱)、被告中川新は右建物につき同法務局昭和三十年一月二十日受付第八七二号をもつてなした、抵当権設定登記(順位番号参)被告森良一は右建物につき同法務局昭和三十年二月二十二日受付第三七九四号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号四)、被告国方幸隆は右建物につき同法務局昭和三十年三月三日受付第四六三三号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号五)被告竹村正夫は右建物につき同法務局昭和三十年三月十四日受付第五五五五号をもつてなした、抵当権設定登記(順位番号六)被告八田鉱業株式会社は右建物につき同法務局昭和三十年三月十五日受付第五七二二号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号七)被告乙坂与助は右建物につき同法務局昭和三十年三月十五日受付第五七二二号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号七)被告滝田栄蔵は右建物につき同法務局昭和三十年三月二十九日受付第六九五二号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号九)各抹消登記手続をせよ。被告阿部ヨシは原告に対し右建物の明渡をせよ。被告嶋田悦郎が別紙目録記載の建物につき被告阿部ヨシに対する札幌法務局昭和三十年一月二十日受付第八七二号をもつて登記された抵当権(順位番号参)実行のためになした札幌地方裁判所昭和三十年(ケ)第七九号不動産競売事件の競売手続はこれを許さず訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並びに、建物の明渡及び競売手続を許さずとの部分につき仮執行の宣言を求める旨申立てその請求原因として次のとおり陳述した。

第一、(抹消登記手続の請求原因)

別紙目録記載の建物(以下本件建物という)はもと訴外竹江茂晴の所有であつたが原告が昭和二十九年四月二十日札幌地方裁判所執行吏森隆三の執行にかゝる有体動産の強制競売に際しこれを競落しその代金を完納して所有権を取得したものである。しかして当時本件建物は未完成で相当部分を補修する必要があつたので原告は訴外石浦信一に対し工費弐百弐拾万円をもつてその工事を請負せたところ未だ原告の所有権保存登記がなされていないのを奇貨として同訴外人は原告に無断で昭和二十九年十一月初旬頃本件建物を被告阿部ヨシに売渡し

一、被告阿部ヨシは、

(い)  札幌法務局昭和二十九年十一月十日受付第二三一五九号をもつて本件建物につき所有権保存登記をなし

(ろ)  昭和三十年一月十六日被告国方幸隆との間に抵当権設定契約をして同被告のため同法務局同年三月三日受付第四六三三号をもつて本件建物につき抵当権設定登記(順位番号五)をなし

(は)  同年一月十六日亡竹村鉄蔵との間に抵当権設定契約をし同人のため同法務局同年三月十四日受付第五五五五号をもつて本件建物につき抵当権設定登記(順位番号六)をなし

(に)  同年十二月九日被告中央信用組合と訴外北晃産業株式会社間の手形取引契約につき担保設定者として根抵当権設定契約をなし同被告のため同法務局同年十二月九日受付第二五九四八号をもつて本件建物につき根抵当権設定登記(順位番号壱)をなし

(ほ)  同年十二月十六日被告朝日産業株式会社との間に前記北晃産業株式会社の右同被告に対する債務につき担保提供者として抵当権設定契約をなし同被告のため同法務局昭和三十年一月二十日受付第八七〇号をもつて本件建物につき抵当権設定登記(順位番号弐)をなし

(へ)  昭和二十九年十二月十七日被告中川新との間に前記北晃産業株式会社の同被告に対する債務につき担保提供者として抵当権設定契約をなし同被告のため同法務局昭和三十年一月二十日受付第八七二号をもつて本件建物につき抵当権設定登記(順位番号参)をなし

(と)  昭和三十年二月九日被告八田鉱業株式会社との間に前記北晃産業株式会社の同被告に対する債務につき担保提供者として抵当権設定契約をなし同被告のため同年三月十五日受付第五七二二号をもつて本件建物につき抵当権設定登記(順位番号七)をなし

(ち)  同年二月九日被告乙坂与助との間に前記北晃産業株式会社の同被告に対する債務につき担保提供者として抵当権設定契約をなし同被告のため同法務局同年三月十五日受付第五七二二号をもつて本件建物につき抵当権設定登記(順位番号七)をなし

(り)  同年三月十五日被告平健治との間に前記北晃産業株式会社の同被告に対する債務につき担保提供者として抵当権設定契約をなし同被告のため同法務局同年三月十六日受付第五八三〇号をもつて本件建物につき抵当権設定登記(順位番号八)をなし

(ぬ)  同年二月二十日被告森良一との間に前記北晃産業株式会社及び訴外阿部武雄の同被告に対する債務につき担保提供者として抵当権設定契約をなし同被告のため同法務局同年二月二十二日受付第三七九四号をもつて本件建物につき抵当権設定登記(順位番号四)をなし

(る)  昭和二十九年十一月二日被告滝田栄蔵との間に前記阿部武雄の同被告に対する債務につき担保提供者として抵当権設定契約をなし同被告のため同法務局昭和三十年三月二十九日受付第六九五二号をもつて本件建物につき抵当権設定登記(順位番号九)をなし

被告国方幸隆、竹村鉄蔵、被告中央信用組合、同朝日産業株式会社、同中川新同八田鉱業株式会社同乙坂与助、同平健治同森良一、同滝田栄蔵はそれぞれ(ろ)乃至(る)記載の抵当権設定登記を受け。

二、被告朝日産業株式会社は昭和二十九年十二月十六日被告阿部ヨシとの間に本件建物につき代物弁済契約をなし札幌法務局昭和三十年一月二十日受付第八七一号をもつて停止条件附代物弁済契約を原因とする本件建物に対する所有権移転請求権保全の仮登記をなし

三、被告平健治は

(い)  同年二月十日被告朝日産業株式会社から前項記載の所有権移転請求権の譲渡を受け本体建物につき同法務局同年三月十六日受付第五八二八号をもつて右譲渡を原因とする弐番仮登記の移転登記をなし

(ろ)  昭和三十年二月十日被告朝日産業株式会社から前記一の(ほ)の抵当権(順位番号弐)の譲渡を受け同法務局同年三月十六日受付第五八二九号をもつて本件建物につき二番抵当権債権と共に移転の附記登記をなし

(は)  同年二月十日被告中川新から前記一の(へ)の抵当権(順位番号参)の譲渡を受け同法務局同年三月十七日受付第五九八七号をもつて本件建物につき参番抵当権債権と共に移転の附記登記をなし

四、被告嶋田悦郎は

(い)  同年五月九日被告平健治から前記三の(い)、所有権移転請求権の譲渡を受け本件建物につき同法務局同年五月十日受付第一〇五〇二号をもつて右譲渡を原因とする弐番仮登記の移転登記をなし、

(ろ)  同年五月九日被告平健治から前記三の(ろ)の抵当権(順位番号弐)の譲渡を受け同法務局同年五月十日受付第一〇五〇一号をもつて本件建物につき「弐番抵当権債権と共に移転」の附記登記をなし、

(は)  同年五月九日被告平健治から前記三の(は)の抵当権(順位番号参)の譲渡を受け同法務局同年五月十日受付第一〇五〇三号をもつて本件建物につき「参番抵当権債権と共に移転」の附記登記をなし、

たものである。

しかしながら本件建物は訴外石浦信一が何等の権限なくして被告阿部ヨシに売渡したものであるから同被告はその所有権を取得する謂れがなく従て同被告がなした所有権保存登記は無効である、又右無効な登記に依拠して行つたその後の各登記も真実の所有者に対し何等効力を生じないから之亦すべて無効であることは明白である。

よつて原告は各被告(竹村鉄蔵は昭和三十二年八月一日死亡し限定承認が行われ被告竹村正夫がその相続財産管理人に選任されたものである)に対しその関係ある前掲登記の抹消登記手続を求める。

第二、(建物明渡の請求原因)

前項記載のとおり本件建物は原告の所有であるところ被告阿部ヨシは原告に対抗し得る何等法律上の権原なくしてこれを占有しているから原告は本件建物の所有権に基き同被告に対しこれが明渡を求める。

第三、(請求異議の原因)

被告嶋田悦郎は前掲第一の四の(は)記載の抵当権実行のため昭和三十年五月二十日札幌地方裁判所に同年(ケ)第七九号事件として本件建物の競売申立をなし同裁判所は同年九月二十六日競売手続開始決定をした。しかし本件建物は前述のとおり原告の所有であつて被告阿部ヨシの所有ではないから同被告に対する抵当権の実行としてなされた右競売手続は失当であるから右手続は許さずとの裁判を求める。

証拠として甲第一号証を提出し証人竹江茂晴、同村津泰志原告本人の各供述並びに検証の結果を援用した。

被告阿部ヨシ、同滝田栄蔵訴訟代理人は請求棄却の判決を求め答弁として、本件建物について原告主張の如き登記がなされたこと、及び被告阿部が右建物を占有していることは認めるが右建物が原告の所有であることは否認する。原告は昭和二十九年四月二十日に行われた有体動産の競売期日に右建物を競落しその所有権を取得したと主張しているが当時右建物は不動産であつたからこれを有体動産としてなした競売手続は無効であつて原告はその所有権を取得しない。仮りに当時不動産であることに疑問があつたとしても既に右建物は七分とおり完成し各材料は土地に定着しており有体動産としての性質を失つていたのであるから土地と共に競落するのでなければ同建物の組成部分については所有権を取得することができない。殊に土台の基礎工作物については競落していないというべきであるからその所有権を取得しない。仮りに当時未だ建物として完成していなかつたとしても、右は訴外竹江茂晴が同石浦信一に対し工事代金四百弐拾万円をもつて請負わせたところ竹江は右の内約金弐百五拾万円を支払つただけであつて更に石浦において約金弐百五拾万円を費し七分通りまで竣工したが資金不足のため昭和二十八年十二月頃工事を中止していたものであつて、石浦はこれを竹江に引渡した事実がないから竹江は未だその所有権を取得していなかつたのである従て右建物か竹江の所有であるとしてなされた競売手続によつて原告かその所有権を取得する謂れがない、又仮りに以上の主張が認められないとしても原告は本件建物につき登記を有しないからその所有権を主張し得ないと述べ証拠として証人竹江茂晴、同阿部武雄の各供述を援用し甲第一号証の成立を認めた。

被告朝日産業株式会社は請求棄却の判決を求め答弁として原告主張事実中、本件建物につきなされた被告会社関係の登記が存在することは認めるかその余は不知と述べ証拠として証人竹江茂晴の供述を援用し甲第一号証の成立を認めた。

被告平健治は請求棄却の判決を求め原告主張事実中、本件建物につきなされた同被告関係の登記が存在することは認めるがその余は不知と述べた。

被告嶋田悦郎は請求棄却の判決を求め答弁として原告主張事実中、本件建物につきなされた同被告関係の各登記が存在すること及び同被告が抵当権実行の為右建物につき競売の申立をなし昭和三十年九月二十六日競売手続開始決定がなされたことは認めるがその余は否認する本件建物は被告阿部ヨシが建築したもので同人の所有であると述べ甲第一号証の成立を認めた。

被告中央信用組合訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として原告主張事実中、本件建物につきなされた、被告組合関係の登記が存在することのみ認めその余は不知と述べ甲第一号証の成立を認めた。

被告中川新は請求棄却の判決を求め答弁として原告主張事実中本件建物につきなされた同被告関係の登記が存在することのみ認めその余は不知と述べた。

被告竹村正夫は請求棄却の判決を求め答弁として本件建物につきなされた亡竹村鉄蔵関係の登記が存在すること及び竹村鉄蔵は昭和三十二年二月二十日死亡し相続財産につき限定承認がなされ被告竹村がその相続財産管理人に選任されたことは認めるが本件建物が原告の所有であることは否認すると述べ甲第一号証の成立は不知と答えた。

被告森良一、同国方幸隆、同八田鉱業株式会社同乙坂与助は適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないし答弁書その他準備書面の提出をしない。

理由

先づ原告の被告阿部ヨシ、同朝日産業株式会社同平健治同嶋田悦郎同中央信用組合同中川新同竹村正夫、同滝田栄蔵に対する主張について判断するに、請求原因第一の一中(い)(は)(に)(ほ)(へ)(り)(る)、二、乃至四記載の各登記がなされた事実被告阿部ヨシが本件建物を占有している事実被告嶋田悦郎が参番抵当権実行の為昭和三十年五月二十日札幌地方裁判所同年(ケ)第七九号をもつて本件建物の競売申立をなし同裁判所が同年九月二十六日競売手続開始決定をした事実及び竹村鉄蔵は昭和三十二年二月二十日死亡し相続財産につき限定承認がなされ被告竹村正夫がその財産管理人に選任された事実はいずれも関係当事者間に争のないところである。

甲第一号証(被告平健治を除く他の被告との関係では成立に争がなく公文書であるから右被告平に関しても真正に成立したものと推定される)証人竹江茂晴同村津泰志及び原告本人の各供述によると別紙目録記載の建物は債権者札幌信用金庫より債務者竹江茂晴に対する強制執行としてなされた有体動産競売事件につき札幌地方裁判所執行吏森隆三代理村津泰志が執行した、昭和二十九年四月二十日の競売期日において原告が最高価の申立人となり代金壱百弐拾万円で競落し右代金を完納した未完成建物(木造二階建建坪六十一坪八合七勺五外二階五十七坪三合五勺)をその後訴外阿部武雄が建築工事を続行しその一部面積を縮少して完成したものであることが認められる。しかるところ右競落による原告の所有権取得に争があり前挙示の各証拠を綜合してみると右競売の目的とされた建造物は訴外竹江茂晴が旅館営業に使用する目的で昭和二十八年八月頃訴外石浦信一との間に工事代金約四百弐拾万円の予定で建築請負契約を締結し右工事費の内約百万円を前渡して工事に着手せしめたところその後請負者において資金が続かずその工事を中止していたものであるが競売期日である昭和二十九年四月二十日当時には屋根を上げて柾を葺き、周囲の壁は木舞を打つて建築紙を貼りつけ且つその上に金網を張り又内部天井は階上階下共桟の打付が終り一部を残して板が張られ、床及びフローリングは全部張り終え壁も木舞が張り付けられ電気の配線は完了し既に七分通り竣工しており壁の上塗り便所湯殿の設備をすれば殆んど完成の程度に達していたことが認められ証人阿部武雄の供述中これに反する部分は措信できず他に右認定を左右し得る証拠はない。而して民法、不動産登記法等においては建物がそれ自体重要な価値を有し且つ土地と独立して取引の客体とせられること物権変動の対抗要件の方法などに着目してこれを一の不動産として取扱うことを定めたものであるから地上の建造物が果して不動産たる建物と見るか否かは之等法規の目的及び社会の通念に従つてこれを決しなければならない。それならば競売物件とされた本件建物は工事中途であるにしても前認定のとおり七分通り竣工し只旅館営業用建築としての完成に役立つ部分を残す程度に達していたのであるから既に動産の領域を脱し不動産の部類に入つていたものと認めるのが相当である。

ところで民事訴訟法第五百三十一条第六百十二条等の規定によれば執行吏は有体動産に対する執行をはじめその他の実力行使を伴う事実的行為に属する執行々為をなす権限はこれを有するが不動産に対する強制執行は執行裁判所の権限とされ執行吏の職分には属しないものと定められている。右は不動産に対する強制執行は複雑且つ慎重な手続を必要とするため執行機関の構成要素上裁判所をして行わしめるのが相当であるとの理由に基くものであつてこれ等執行機関の職分管轄の定めは公益的見地から定めた権限の配分であるから絶対的強行性を有しこれに違反してなされた執行々為は当然に無効であると解するのが相当てある。しかして本件建物が有体動産に対する強制執行として執行吏によつて行われたことは前認定の如くであるから右執行々為は職分管轄に違背し無効であるばかりでなく、執行債務者である竹江茂晴が注文者として請負人から本件建物の引渡を受けた事実若は所有権移転の時期について特別の意思表示のあつた事実についての立証がなくむしろ証人竹江茂晴の供述によると右竹江においてはかつて請負人より本件建物の引渡を受けた事実のないことが認められるので競落当時竹江茂晴は未だ本件建物の所有権を有しなかつたものと見るのほかはなく債務者の所有に属しない物件について競落がなされたとしても競落人において所有権を取得する実体法上の理由がないから以上何れにしても競落に因る所有権取得を原因とする原告の主張は理由がなく従つて所有権の存在を前提として被告等に対しそれぞれ抹消登記手続建物の明渡並びに競売手続の排除を求める主張はすべて失当といわなければならない。

次に被告森良一、同国方幸隆、同八田鉱業株式会社同乙坂与助は本件口頭弁論期日に出頭しないし答弁書準備書面の提出もせず他に原告の主張を争うものと見るべきものがない。それならば本件は訴訟の目的が共同訴訟人の全員につき合一にのみ確定すべき場合に該当しないから右被告等は原告の主張事実を自白したものと見做されるところ右事実によれば別紙目録記載の建物につき被告森は札幌法務局昭和三十年二月二十二日受付第三七九四号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号四)被告国方は同法務局同年三月三日受付第四六三三号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号五)被告八田鉱業株式会社は同法務局同年三月十五日受付第五七二二号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号七)被告乙坂は同法務局同年三月十五日受付第五七二二号をもつてなした抵当権設定登記(順位番号七)の各抹消登記手続をなすべき義務を有する。

仍て爾余の判断を俟つまでもなく原告の本訴請求は被告森同国方同八田鉱業株式会社同乙坂に対し各抹消登記手続を求める限度においてのみ正当として認容せられるがその余の被告等に対する請求は失当としてこれを排斥すべきであるから訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝)

目録

札幌市南一条西二十一丁目十八番地

家屋番号 二九番

一、木造モルタル塗柾葺二階旅館

建坪五十五坪二合五勺外二階五十三坪七合五勺

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